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欧州循環経済政策と化学物質管理の方向性

  1. このコラムは、循環経済政策の専門家として長年にわたり活躍されている、(公財)地球環境戦略研究機関持続可能な消費と生産領域主任研究員で、現在、中央環境審議会委員も務められている粟生木千佳様に、これまでの豊富な経験をもとに、欧州グリーンディールに始まる欧州の循環経済政策の動きにおける化学物質管理に関する動向と化学産業に求められることについて執筆いただきました。
  2. このコラムに記載されている内容に関し、法的な対応等を保障するものではありませんのでご了承ください。
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目次

第1回 欧州循環経済政策と化学物質管理の方向性 (1)

1.はじめに

  22015年に発表された欧州連合(EU)による第1次循環経済行動計画、2018年に発表されたプラスチック戦略、2019年7月に発効された特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令(いわゆる使い捨てプラスチック規制)以降、企業においても循環経済への移行に向けた活動が活発化しています。特にプラスチック問題が盛んに議論され始めてからは、化学メーカーを中心に循環経済と関連付けた事業を検討する動きが盛んになったことは皆さんご存知のところかと思います。EUでは、循環経済は、気候中立性達成のための主要な要素として位置づけられ、また、製品政策や化学物質管理とも関連付けて議論されています。

2.資源・物質消費と環境課題

  循環経済を議論する前提として、資源・物質消費と環境課題の関係について整理します。昨今、国連の環境課題を議論する場でよく用いられる用語に3つの地球危機『the triple planetary crisis』という言葉があります。その3つの危機とは、気候変動、自然・生物多様性喪失、汚染を指しているのですが、これらの危機の背景には、非持続可能な消費と生産形態にあるとの考え方が浸透してきつつあります。
  UNEP国際資源パネルの推計によれば、気候変動の要因の約5割、土地利用に関係する生物多様性喪失の原因の約9割が天然資源の採掘と加工によるものだと言われています。また、当然ながら、我々の製造と消費の帰結として汚染と廃棄物が排出されます。

  昨今、農産物を中心に、このような地球危機/環境課題の観点と私たちの消費活動の関係を問い直すような動きが活発化しています。具体的に言えば、2021年国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で採択された、2030年までに森林破壊を止め、回復させるとする「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」(日本含む約140か国が署名)です。この中では、持続可能な商品生産と消費の促進が強調されました。また、英国やEUでは、森林破壊を伴うような製品の輸入を禁止する法制度が検討されつつあります。生物多様性条約(CBD)においても、現在2030年行動目標が検討されていますが、その中で、プラスチック廃棄物削減、(資源の)採取と生産、調達とサプライチェーン、利用と廃棄における持続可能性強化、食料・資材の廃棄・過剰消費削減に係わる行動が挙げられています。農産物も含めて様々な資源・物質を海外に依存する日本にとっては、持続可能な天然資源管理の向上、天然資源(バージン資源)に依存しない経済の在り方を追求していく必要性が今後増してくるでしょう。

3.循環経済とは

  循環経済(サーキュラーエコノミー)は、経済成長・繁栄を達成しつつも資源利用および資源利用に伴う環境影響を増加させない「デカップリング(切り離し)」を実現する持続可能な社会経済を構築するための重要なアプローチとして認識されてきています。循環経済に、国際的に合意された定義があるわけではありませんが、一般に、資源や製品のライフサイクル全体で循環促進や天然資源の使用を削減し、より少ない資源でより豊かな生活を念頭に置いた資源効率性向上を実現するための手段の一つともいえます。循環経済には、リサイクルのみならず、再使用や再製造などの他の循環の取組、製品の耐久性向上や長寿命化の取組、循環を想定した設計生産、シェアリングや製品のサービス化、非再生可能な資源の使用を避け、生物資源等の(著者注:持続可能な管理が行われる限り)再生可能な資源の活用とその自然循環も含めることが多いといえます。

4.第1次EU循環経済行動計画と化学物質管理

  2015年12月に第1次EU循環経済行動計画が公表され、それに続いて、各種廃棄物の野心的リサイクル目標の設定、プラスチック戦略やいわゆる使い捨てプラスチック規制などが策定されました。これらのEU循環経済に関する取組では、エコデザイン指令に物質効率性観点(リサイクル可能性、再使用可能性、耐久性など)が反映されることが初めて公表されました。これらの取組では、環境政策のみならず産業政策としての位置づけも大きいこと、よりライフサイクルの上流側(製品製造者)や、消費者の関与を求めていること、環境政策の枠を超えて、様々な政策においても循環経済の観点を反映させて実行している点に、それまでの日本の循環型社会政策との違いがみられ、製造業を中心に注目が集まりました(現在は、日本においても循環経済の観点が取り入れられた議論が展開されています)。
  これらの取組の中で、化学物質管理と循環経済との関連性は、特に再生プラスチックなどの再生資源(2次資源)の活用において「製品中の懸念化学物質の削減及び追跡の改善を含む、化学物質・製品・廃棄物のインターフェイス(相互関連性)」として議論されています。
  EUの問題意識としては、廃棄物関連事業者にとって製品中の懸念物質の情報が利用可能でないことや、現在は使用禁止されている物質が廃棄物中に含まれうること、廃棄物・化学物質に関するルールが十分に調和されておらず、廃棄物から新規製品に再生される際の(懸念物質が含まれる)不確実性などから、再生資源の活用に影響を与えていることなどが挙げられています。例えば、健康や環境への悪影響が懸念される物質が規制や禁止の対象となる前に製品に含まれた場合、その懸念化学物質がリサイクル段階で排出されることもあります。そのような化学物質をリサイクル段階で発見・排除することは、特に小規模リサイクラーにとって困難であるといえます。そこで、非毒性物質の使用促進や製品中の懸念化学物質の追跡を行うことによって懸念物質への対応、リサイクラーの負担軽減、リサイクルプロセスにおける化学物質のトレーサビリティとリスク管理に対応し、リサイクル促進を目指す意図が示されたと理解しています。

  循環経済への期待は、国内外の様々な場において高まっており、化学物質の取り扱いはリスク要因でもありますが、循環経済の実現に貢献するような化学物質の開発や化学物質管理の実施が機会にもなりうるということかと思います。2020年に策定された第2次EU循環経済行動計画等においてもこのトピックが継続的に扱われています。重要ではあるものの、容易には解決しがたいトピックであることも同時に示唆するものではありますが、次回はそれらの内容を中心にご報告します。

【参考文献】

  • UNEP国際資源パネル「世界資源アウトルック2019」
  • 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)
      「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」
  • 生物多様性条約「ポスト2020生物多様性枠組第一次草稿」
  • EU「循環経済行動計画」(2015)

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第2回 欧州循環経済政策と化学物質管理の方向性 (2)new

1.はじめに

  前回は、循環経済をめぐる背景や循環経済の考え方、また、EUの第1次循環経済行動計画(以下、第1次計画)における化学物質管理の位置づけなどをお話しました。今回は、第1次計画以後の循環経済に関する施策と化学物質管理の関連性について、2020年3月に策定された第2次循環経済行動計画の内容を中心にお話ししていきたいと思います。

2.SCIP(Substances of Concern In Products)データベース

  第1次計画において、循環経済と化学物質管理の関連性が取り上げられた背景として、例えば、規制対象となる懸念物質をリサイクル段階で発見・排除が特に小規模リサイクラーにとって困難であること、また、廃棄物関連事業者にとって製品中の懸念物質の情報が得にくいことなどが挙げられていると、前回でもお話しました。
  この課題に対処するため、第1次計画以後の2018年に実施されたEUの廃棄物枠組み指令改正の際に、製品中の懸念物質の報告が義務付けられました。
  本稿の読者の方はすでに対応しておられると思いますが、具体的には、0.1%超濃度の高懸念物質を1つ以上含む成形品の全供給者(例えば、製品の製造者、輸入者、卸売業者)は、成形品の詳細と物質使用部分の届出を欧州化学物質庁(ECHA)に行うこととなっています。自動車、カメラ、衣類、家具、プラスチック、スマートフォン、建築製品などの製品が対象となります。
  これにより、廃棄物処理業者やリサイクル業者に対して、より効率的な廃棄物分別・再処理のための懸念物質の情報提供が、物品や材料のライフサイクル全体を通じて利用可能とする仕組みを整備したということになります。

3.第2次循環経済行動計画

  EU第2次循環経済行動計画は、2019年に発表された気候中立に向けた環境・産業政策に関する行動計画であるグリーディールの一環として位置づけられています。
  第1次計画と比較して、製品設計や製造段階に重点が置かれています。特に、持続可能な製品政策イニシアチブ/枠組みを構築し、耐久性、再利用・修理・リサイクル可能性、製品中の有害物質への対処、エネルギー・資源効率性の高い製品に向けた施策を掲げている点が象徴的です。持続可能な製品に関して、リサイクル材の使用増加、早期陳腐化対策、製品サービス化、修理サービス提供、スペアパーツ確保等が促進される方向となっています。加えて、消費者強化(empowerment)の観点等から、デジタル技術を活用して製品の持続可能性情報開示を進めることが検討されています。優先分野には、エレクトロニクス・ICT、バッテリー・車両、容器包装、プラスチック、テキスタイル、建設と建物、食品・水・栄養素、高影響中間材(鉄鋼・セメント・化学物質)が挙げられています。
  第2次計画内では、毒性がない環境(toxic-free environment)での循環性向上という観点から、化学物質管理と循環経済の移行を進める施策が示されました。例えば、廃棄物からの汚染物質除去のための選別ソリューションの開発支援、リサイクル材とその製品に含まれる問題物質の存在の最小限化等です。また、持続可能性のための化学物質戦略で、化学物質、製品、廃棄物に関する法律間のインターフェースにさらに取り組み、循環経済との相乗効果を強化する方向性が示されました。

4.EU持続可能性のための化学物質戦略 -循環経済との関連

  2020年10月に発表された持続可能性のための化学物質戦略には化学物質に関する様々な施策が示されていますが、特に循環経済と関連が深いものは「安全な製品と無害な材料サイクルの実現」に示された施策です。ここでは、有害物質を含まない材料サイクルやクリーンなリサイクルを目指し、製品やリサイクル材に含まれる懸念物質の最小化、原則として、バージン材とリサイクル材に同等の有害物質の制限値適用、廃棄物中のレガシー物質の存在に対処するための革新的技術への投資と規制措置の連動を通じて、より多くのリサイクルを実施することが目標として掲げられました。
  こちらには、循環経済と化学物質の関連性について、以下のようなより具体的な施策が示されています。

  • 持続可能な製品政策イニシアチブの一環として、繊維製品、食品包装を含む包装材、家具、電子機器およびICT、建設・建築物など、脆弱な人々に影響を与える製品カテゴリーや、循環の可能性が最も高いカテゴリーに優先し、要求事項を導入、製品中の懸念物質を最小化。
  • 持続可能な製品政策イニシアチブの文脈で情報要件を導入、材料と製品のライフサイクルを通じて懸念物質の存在追跡により、化学物質の含有量と安全な使用に関する情報の入手可能性確保。
  • REACH におけるリサイクル材料に関する認可と制限の緩和が例外的で正当であることを確認。
  • 廃棄物の流れを汚染除去し、安全なリサイクルを促進し、廃棄物(特にプラスチックと繊維)の輸出削減可能とする持続可能な技術革新への投資支援。
  • 物質、材料、製品のライフサイクル全体を考慮した化学物質リスク評価の方法論開発。

5.EUにおける循環経済政策強化の下で化学産業に求められること

  これらの動向を概観すると、持続可能な製品という大きな枠組みの下で、化学物質管理政策と循環経済政策の間での政策調和を進めた形での政策設計がなされているといえます。
  中でも、循環・リサイクルも含めたライフサイクル全体で懸念物質の最小化(使用の削減や回避)と、安全性確保のための情報管理が鍵ではないかと考えます。情報管理・開示については、EUの持続可能な製品政策イニチアチブに関連し、製品パスポートと通じた製品の持続可能性情報をデジタル化して表示させる動きが進んでいます。また、少しEUから外れますが、現在、ISOTC323において、循環経済に関する国際規格が議論されており、その一部として、Product circularity data sheet というバリューチェーン全体で製品の循環性に関わる情報を共有する仕組みの検討が進んでいます。
  つまりは、製品の化学物質を含む原材料の使用量や環境影響など持続可能性に関する情報を、サプライチェーン全体を通して、把握することが必要となる可能性が高いということです。
  化学物質管理分野には、REACHや安全データシート(SDS)など様々な情報管理・伝達のための仕組みがあり、日本には、サプライチェーンにおける化学物質情報の伝達スキームchemSHERPAもありますが、このような既存の情報伝達スキームを、循環性も含めた製品の持続可能性情報を管理する仕組みとして拡張する可能性を指摘する専門家もいらっしゃいます。
  一方で、評価や管理を追求するというよりも、Safe by design・懸念物質最小化という考えに基づき、安全な物質への代替、使用回避も必要になろうかと思います。循環というライフサイクルにおいても、懸念物質の使用が少ない方が管理コストは低いのではと想像します。他方で、リサイクルを離れると耐久性の観点から素材に各種化学物質が用いられている例もあります。耐久性向上も重要な循環経済の観点です。これらの効果を適切に評価できる仕組みも必要と感じます。今回はあまり触れていませんが、持続可能性という観点からは、脱炭素や生物多様性課題も達成しなければならず、対処すべき問題は多様で統合的な判断が必要になります。
  つまりは、分野横断型の取組を通じて、製品のライフサイクル全体の持続可能性に関する評価・情報管理を多面的・一元的そして効率的に行う仕組みが求められて、それを下支えするような政策・政策間調和も重要になるでしょう。

【参考文献】

  • EU SCIP(Substances of Concern In Products)
  • EU第2次循環経済行動計画”Circular Economy Action Plan the European Green Deal”
  • EU持続可能性のための化学物質戦略”Chemical strategy for Sustainability”

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