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PFAS対策の国際状況と今後の動向

  1. このコラムは、国内事業者において特に近年非常に関心が高まっているPFASについて、国内外のPFAS規制動向について調査し、ウェブサイトやセミナーにより情報発信されてきました日本フルオロケミカルプロダクト協議会の松岡康彦氏に、PFAS対策の国内外の状況及び動向について情報を整理いただき、今後の事業者に求められる対応について専門的知見から執筆をいただきました。
  2. このコラムに記載されている内容に関し、法的対応等を保障するものではありません。また、化学物質国際対応ネットワークまたは環境省の見解を示すものではありません。あらかじめご了承ください。
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目次

第1回 PFAS対策の国際状況と今後の動向 (1)new

1.はじめに

  有機フッ素化合物の歴史は、1930年代前半に空調機用冷媒の商業生産、また同後半のフッ素ポリマーの開発で始まった。これら有機フッ素化合物は耐熱性や耐薬品性などユニークな性質を有することから、様々な分野で使用され、第二次世界大戦後の社会生活の進化を支えてきた。然しながら、有機フッ素化合物を含む製品が寿命を終え廃棄されると、その卓越した耐久性から環境下での残留性が指摘され、また、一部の化合物は生物蓄積性や毒性が懸念されたことから、近年ではPFASという総称で、各国及び地域で規制が議論されるようになってきた。
  本コラムでは、PFASとはどのような化合物であるか、その特性と用途に加えて、欧米を中心とした最近の規制の状況を紹介する。

2.PFASについて

- PFASの種類

  PFASは、Per and Polyfluoroalkylsubstancesの略であり、構造の中に2つ以上のフッ素原子を有する有機フッ素化合物の総称であるが、定義される構造は国や機関によって異なる。現在、経済協力開発機構(OECD)で提案されている定義 *1)は炭素数が一つ以上、米国環境保護庁(EPA)の規則 *2) に規定された定義では炭素数が二つ以上の化合物が対象となっている(いずれも炭素原子に結合する元素によって定義に非該当となる物質がある)。
  このように定義上、PFASは空調機用冷媒として使用される低分子量のガス状物質から、航空機電線の被覆材に使用される高分子量のポリマーまで含まれ、その数は10,000を超えるとされており *3)、様々な物理化学性状を有する多様な化学物質群である。
  全てのPFASに共通する要素は、炭素原子とフッ素原子が結合した構造を有することだけであり、全てのPFASが水や油を弾いたり、水に溶けて水源を汚染したりする訳では無い。PFASの中には、難分解性、生物蓄積性、毒性が懸念され、POPs条約で規制対象となっているPFOS(パーフルオロスルホン酸:C8F17SO3H)やPFOA(パーフルオロカルボン酸:C7F15COOH)のような物質があるが、これらが全てのPFASを代表するものとして報道されることがあるため、今後は規制されているPFOSやPFOAなどを「特定PFAS」と表現し、フッ素ポリマーやフッ素ガスなど、他のPFASと区別していくことが必要と考える。

- PFASの用途

  全てのPFASに共通する要素となっている炭素原子とフッ素原子の結合構造は、例えば一般的な炭素原子と水素原子の結合と比べてとても強固であり、その結果として、耐熱性、耐薬品性、難燃性、耐候性、高摺動性、耐電圧性など、様々な機能を発現する。
  PFASが多くの分野で採用される理由は、これら様々な機能を一つの素材で発現できるためである。例えば、難燃性の材料としてはPVC(ポリ塩化ビニル)などが挙げられるが、難燃性に加え耐候性が求められる場合は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体)などのフッ素ポリマーの独壇場となる。
  PFASの様々な産業分野での採用事例について、日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)のサイトをご覧頂きたい *4)。PFASは現代の主要産業のみならず、これからの社会資本の構築に不可欠であり、例えばデジタルトランスフォーメーション(DX)の分野では半導体の各製造プロセス、また6Gなどの高速通信装置の電子基板などに使用されている。またグリーントランスフォーメーション(GX)の分野では、スマートフォンやEVに使用されるリチウムイオン電池の電極、また電気分解による水素の製造装置や燃料電池の基幹部材である電解質膜に必須の素材である。

3.国際条約

- POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)

  POPs条約では、 難分解性(環境での残留性)、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移動性が懸念される残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)について、製造及び使用の廃絶・制限、非意図的生成物質の排出削減等を規定している。その対象となる物質は残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)において議論されたのち、締約国会議(COP)において決定される。
  2023年6月時点で、既にPFASとしては、PFOS、PFOA及びPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸:C6F13SO3H)の製造及び使用の廃絶もしくは制限が決定されている。このうち、PFOS及びPFOAについては、日本においても国内担保法である化審法において、第一種特定化学物質として規制されている。
  これら3物質以外では、炭素数が9から21までの長鎖パーフルオロカルボン酸(C9-C21 Long-chain perfluorocarboxylic acids;PFCAs)のPOPRCでの議論が2022年より始まっている。パーフルオロカルボン酸については、鎖長が長くなるにつれて、生物蓄積性が上昇することが知られているが *5)、炭素数9から21の間の一部化合物においては、議論に必要な情報が無いことが指摘されている。

4.欧州REACH規則(化学品の登録・評価・認可および制限に関する規則)

- REACHにおける認可と制限

  欧州において、化学物質はREACH規則の認可プロセスと制限プロセスで規制される。REACH規則の詳細については、環境省のサイトを参照頂きたい *6)。認可プロセスにおける対象物質の候補であるSVHC(高懸念物質:substances of very high concern)リストには、2023年6月時点で13種類のPFASが登録されている。
  一方で、制限リストに、同6月時点で登録されている主要なPFASは、C9-C14の長鎖パーフルオロカルボン酸である(PFOS、PFOA及びPFHxSはPOPs条約のEUでの担保法であるEU-POPs規則のリストに掲載されている。)。また同6月時点で、制限プロセスでは、PFHxA(パーフルオロヘキサン酸:C5F11COOH)とその塩及び関連物質、消火剤用途のPFAS 及び 全てのPFAS化合物(Universal PFAS) の3件の審議が進んでいる。このうち、PFHxA制限案およびPFAS制限案について以下に現在の状況を紹介する。
  なお、REACHにおける制限の審議プロセスの流れについては、FCJの第二回及び第三回のウェビナー資料をご参照頂きたい*7)8)。

- PFHxA制限案

  欧州におけるPFHxAに関する規制は、ドイツがSVHCの提案を取り下げ、2018年12月に制限の意図の登録(Registry of Intention)をECHA(欧州化学物質庁)に提出し、2020年初には提出された制限案が公開された。ドイツはPFHxAの制限理由として、難分解性に加えて、水相への移動性や界面活性能が高いことから、地下水や表層水への汚染懸念を挙げている。
  この制限案に対しては、ECHAの専門委員会であるRAC(リスク評価委員会)とSEAC(社会経済性分析委員会)での審議と併行して、パブリックコンサルテーションが二度実施され、2021年12月にはSEACによる最終意見が欧州委員会に提出された *9)。その後、欧州委員会にて通常よりも時間を掛けて作成された法案が2023年6月に公開されたが *10)、その内容はこれまでに提案と大きく変わるものであった。
  ドイツの制限案からSEACの最終意見まで、制限案はPFHxAとその塩及び関連物質を原則全面禁止とし、特定の用途に規制免除を与えるという骨子であったが、欧州委員会法案はPFHxAとその塩及び関連物質を一般消費用の繊維/皮革/紙製品など一部の用途で禁止するという内容となった。欧州委員会はこの法案の内容に至った理由として、排出量、リスク低減、社会経済的影響等のデータが不確実であるため、特定されたリスクへの対処には、広範な制限ではなく、対象を絞った制限が最も適切であると説明している *10)。
  この欧州委員会法案は、欧州委員会内のREACH委員会で2023年末まで審議された後に採択され、2024年上半期には、欧州議会及びEU理事会の精査を経て、法律が発効される見通しである。

- PFAS制限案

  欧州で有機フッ素化合物をPFASとして一括で規制する考えが示され、2020年5月に5ヶ国(オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー)から、制限案作成のための情報提供(Call for Evidence)が呼び掛けられた。続いて2020年10月には、欧州委員会が発表した持続可能な化学物質戦略(Chemicals Strategy for Sustainability)の中で、PFASの制限について言及している。その後、5ヶ国により2021年7月に制限の意図の登録が提出された後、2023年3月に制限案が正式に公開され *11)、この制限案に対するパブリックコンサルテーションが2023年9月25日まで実施されている。
  欧州5ヶ国がPFAS制限案を提案した理由として、PFASが非常に難分解であること、加えてその多くが生物蓄積性や移動性などの懸念を有することを挙げている。また提案の内容は、PFASの使用・製造・販売を主には医薬及び農薬を除き全面禁止とし、特定の産業分野の用途にのみ、一定期間(移行期間を含め6.5年もしくは13.5年)の制限の執行猶予を与えるというものである。制限案の詳細については、FCJの第三回のウェビナー資料をご参照頂きたい *8)。また、2023年9月30日までは第三回ウェビナーの映像をウェブで公開している *12)。
  今回の制限案に対して、FCJでは見解書 *13)を公開し、パブリックコンサルテーションでも同意見を提出している。意見書の中では、制限案の主要な理由である難分解性であることが、REACH規則68条に記載された化学物質の制限理由である“社会全体で対処する必要がある人間の健康または環境に対する許容できないリスク”に整合するかについて言及している。また、制限理由の一つとしている生物蓄積性や移動性については、全てのPFASに該当するものでないため、今回提案されているような全てのPFASを一括に規制するのではなく、例えばOECDで提案されているように *14)、フッ素ポリマーやフッ素ガスなど物理化学等の性状に併せてサブカテゴリー化した方がより適切にリスクを評価可能ではないかと提案している。
  この制限案について、ECHAは、パブリックコンサルテーションのINFO NOTE *3)の中で、制限案には取り上げられていない産業分野や用途があること、またPFASに対する代替案等に対する情報が一般的であること(一例として、制限案の附属書eにおいて、PFASを使用するリチウムイオン電池の代替として、鉛蓄電池が提案されている *15))から、関係者に対し、コンサルテーションでの意見出しを呼び掛けている。現在、制限案で取り上げられていない産業分野や用途において、もしも情報が提供されなければ、そのまま制限が発効してしまう可能性があるため、関係者の皆様には是非コンサルテーションへ応答頂きたい。コンサルテーションの応答については、FCJがパブコメ応答ガイダンス *16)を公開しているので、こちらを是非ご参照頂きたい。2023年6月時点で公開されているコンサルテーションの総数は約600件であり、その内5割弱が日本からの提案であり、その中には経済産業省からの意見 *17)も含まれている。
  最後に繰り返しとなるが、PFASとは有機フッ素化合物の総称であり、その中にはフッ素ポリマーやフッ素ガスなど様々な性状の化合物が含まれている。中には、難分解性、生物蓄積性、毒性等が確認され、POPs条約で規制されているPFOSやPFOAのような“特定PFAS“があり、これら及び同様の性状を有する化合物の使用は適切に管理もしくは規制されるべきと考える。一方で、難分解性のみを取り上げると、素材として耐久性が高いことを意味し、これは望ましい特徴である。然しながら、製品として廃棄された後には、環境中に排出され、その残留が懸念されるため、使用済みの製品の回収、再生を進めることで、循環型のサプライチェーンを構築していく必要があると考える。

  次回は、米国や英国など他の海外地域におけるPFASの規制動向、および最近得られたPFASに対する新たな知見について紹介する予定である。

※1  Reconciling Terminology of the Universe of Per- and Polyfluoroalkyl Substances: Recommendations and Practical Guidance:
https://one.oecd.org/document/ENV/CBC/MONO(2021)25/En/pdf
※2  Per- and Poly-Fluoroalkyl Chemical Substances Designated as Inactive on the TSCA Inventory; Significant New Use Rule:
https://www.federalregister.gov/documents/2023/01/26/2023-01156/per--and-poly-fluoroalkyl-chemical-substances-designated-as-inactive-on-the-tsca-inventory
※3  Consultation on a proposed restriction on the manufacture, placing on the market and use of per- and polyfluoroalkyl substances (PFAS):
https://echa.europa.eu/documents/10162/cad38c27-ede8-2268-00c6-939ea066743c
※4  FCJ第一回ウェビナー資料:
https://cfcpj.jp/pdf/Lecture_materials_20220420.pdf
※5  Environ. Sci. Technol. 2008, 42, 4, 995–1003:
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/es070895g
※6  REACH関連情報:
https://www.env.go.jp/chemi/reach/reach.html
※7  FCJ第二回ウェビナー資料:
https://cfcpj.jp/pdf/Lecture_materials_20221130.pdf
※8  FCJ第三回ウェビナー資料:
https://cfcpj.jp/pdf/No3_webiner_Document-20230407.pdf
※9  Committee for Risk Assessment (RAC) Committee for Socio-economic Analysis (SEAC) Opinion on an Annex XV dossier proposing restrictions on undecafluorohexanoic acid (PFHxA), its salts and related substances:
https://echa.europa.eu/documents/10162/97eb5263-90be-ede5-0dd9-7d8c50865c7e
※10  COMMISSION REGULATION (EU) …/… of XXX amending Annex XVII to Regulation (EC) No 1907/2006 of the European Parliament and of the Council as regards undecafluorohexanoic acid (PFHxA), its salts and PFHxA-related substances:
https://ec.europa.eu/transparency/comitology-register/screen/documents/090483/1/consult?lang=en
※11   ANNEX XV RESTRICTION REPORT PROPOSAL FOR A RESTRICTION: SUBSTANCE NAME(S): Per- and polyfluoroalkyl substances (PFASs):
https://echa.europa.eu/documents/10162/1c480180-ece9-1bdd-1eb8-0f3f8e7c0c49
※12  FCJ第三回ウェビナー動画(2023/9/30まで公開):
https://youtu.be/pSPs20elu5Y
※13  欧州PFAS制限案に対するFCJ見解書:
https://cfcpj.jp/pdf/japan_pfas_comments_submission.pdf
※14  Fact Cards of Major Groups of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFASs):
https://one.oecd.org/document/env/cbc/mono(2022)1/en/pdf
※15  Annex to the ANNEX XV RESTRICTION REPORT(本文416頁):
https://echa.europa.eu/documents/10162/8de11d7c-c56f-e204-5072-e89f11071219
※16  欧州PFAS制限案に関するパブコメガイダンス資料:
https://cfcpj.jp/pdf/fcj_pbcm_guidance.pdf
※17  経済産業省の意見については、リンクのWORDファイルをダウンロードし4344番を参照ください:
https://echa.europa.eu/documents/10162/9ba5761c-5046-3ed8-2c30-ea9473651de2

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