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欧州GHS対応事例―CLP規則の本質と活用―

  1. このコラムは、企業の化学物質・製品含有化学物質管理の専門家であり、同分野の著書やコラム等を多数執筆している山口潤氏(GHS&リスク研究会)に、化学産業界の第一線で過ごされてきた豊富な経験に基づき執筆をいただいたものです。
  2. このコラムに記載されている内容に関し、法的な対応等を保障するものではありませんのでご了承ください。
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第1回 CLP規則の基本的な考え方・規則概要・対応方法概要
~その1 CLP規則の基本的な考え方~

1.はじめに

 欧州は、1967年以来、DSD/DPD指令*)で「分類・表示と包装」すなわち商品の包装とラベル表示を規制してきたが、2008年に国連GHS**)に対応したCLP規則***)を公布し、旧法DSD/DPDからの移行を進めている。

*)DSD(EUROPA):指令67/548/EEC(DSD = Dangerous Substances Directive :危険な物質の分類、包装、表示に関する指令 )
 DPD(EUROPA):指令1999/45/EC(DPD = Dangerous Preparations Directive:危険な調剤の分類、包装、表示に関する指令)
**)GHS(環境省):The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:化学品の分類および表示に関する世界調和システム
***)CLP規則(EUROPA):規則(EC) No 1272/2008(Classification, labelling and packaging of substances and mixtures:物質及び混合物の分類、ラベル、包装に関する規則)

 このCLP規則はGHSに対応していることから、単純に「日本や他の国のGHS対応ラベルと共用できる」といった誤解が生じ易い。しかし、実際は従来のDSD/DPD指令同様に欧州独自の対応を求めると理解したほうが正しい。むしろ、GHSがベースになっているため、絵表示や使用すべき文言等が統一されて共通になっている分、日本等との違いが際立ってしまう結果となっている。
 一方、視点をかえるとCLP規則は、化学物質の有害性情報伝達に関する代表的なモデルの法律である。CLP規則はGHSを全面的に実施する世界で最初の規則であり、CLP規則がラベル表示に関する各国法の一つの手本になっていくであろう。
 各国がGHSへの完全対応に手間取っている中、欧州はGHSへの完全対応を目的としたCLP規則実施にチャレンジしており、そのチャレンジを成功させるために欧州は種々の施策を行っている。各国・各企業にとっては、GHS対応ラベル表示や包装対応の良き基準・考え方が提供されつつあるとも読める。
 本稿でこのCLP規則の基本的な考え方を紹介し、次回はCLP規則 2ndATP(EUROPA) ****)までを含めた規則概要を、3回目は対応方法概要を紹介する。

****)CLP規則 2ndATP:CLP規則の第二次ATP(ATP: adaptation to technical and scientific progress 科学および技術の進歩への適応)による改訂

2.CLP規則の基本的な考え方

 CLP規則の詳細に入る前に、CLP規則を理解して、正確な対応を行う上でキーとなる、CLP規則制定時の考え方および前文に記載されている主な考え方を紹介する。
 CLP規則は、2001 年2 月に欧州委員会から提案された「将来の化学物質政策の戦略」である白書 (White Paper)(JCIA) (訳:日本化学工業協会)に基づき、REACH規則とともに作成された。
 CLP規則は白書の第7項の「分類及び表示」に関係している。この部分の対応アクションとして以下の3点が提案され、CLP規則に組み込まれた。

以下に白書(EUROPA)該当部分の筆者による訳もしくは要約を記載する。必要に応じ日化協の和訳(JCIA)も参考されたい。また、文中のCLP規則前文および条文の詳細な内容の確認は原文(ECHA)(欧州化学品庁サイト)もしくは和訳(GHS)(日本大学 城内研究室 サイト)も参照されたい。

アクション7A: 調和された分類を最も問題とされる特性に限定する

当局の資源は、発がん性、変異原性および生殖毒性(CMR)といった最も問題とされ、その分類が重要なリスクマネージメントにつながる有害性に重点化されるべきである。

考え方は、CLP規則前文(17)や前文(52)等に更に詳細に記載されている。CLP規則の大きな特徴である第36条関係の「調和された分類」は、この方針で導入された。また、第4条3項の規定により、「調和された分類」がある場合、その使用が義務化されている。なお、調和された分類が無い場合には自主分類が義務化されている。

アクション7B: 欧州委員会は産業界に危険物質のリストを求める

欧州委員会は、市場にあるすべての危険物質について、分類およびラベル表示に関する総合的な情報を含むリストの提供を産業界に求める。このリストは、インターネット上でだれもが無料で閲覧・利用できるようにすべきである。

考え方はCLP規則前文(54)等に更に詳細に記載されている。この部分はCLP規則の第40条「庁に届け出る義務」に組み込まれた。また、インターネット上での公開は第42条に組み込まれている。このリストはC&Lインベントリー(ECHA)として2011年内に公開が予定されている。

アクション7C: GHS(世界的分類調和)を通じ、現在のラベルシステムを単純化し理解しやすさを向上する

CLP規則前文(77)に基本的な考え方が記載されている。また、CLP規則第53条「技術的および科学的進歩への適応化」のところで、明確にGHSの進展を考慮に入れることが謳われている。国連GHSの改訂周期が2年であることを考慮に入れると、CLP規則は2年ごとの改訂が行われても不思議はなく、改訂内容が分類に影響する場合、「調和された分類」およびC&Lインベントリーも改訂となろう。実際、CLP規則の2ndATP(2011年3月に公布)により、CLP規則は当初の国連GHS改訂2版対応から国連GHS改訂3版対応に切り替わり、一部の分類基準も変更になった。(その概要は次回のコラムで紹介する)

以上が、CLP規則の方針とも言える考え方であるが、CLP規則の前文にはその他にもCLP規則を特徴づける以下の考え方が記載されている。

従来法DSD/DPD指令の保護レベルを維持する。

前文(8)で、GHSを導入するが、GHSにまだ組み込まれていないハザードクラスや現行の表示および包装規則により達成されている保護レベルを維持することを明記している。また、前文(15)で「DSD/DPD指令が提供している現行の人の健康および環境の保護の総体的レベルを維持しなければならない」と、GHSでカバーされていない部分は従来の規則を踏襲することを明記している。

この考え方があるため、CLP規則は国連GHSとは異なったものになっている。

DSD指令の附属書I「特定物質の分類および表示」を受け継ぐ

前文(53)に、DSD指令の附属書I「特定物質の分類および表示」を含め、DSD指令の下で蓄積された作業および経験を十分に考慮することを明記している。

DSD指令の附属書Iにリストされた物質は、CLP規則の附属書VIIの変換テーブルを用いてGHS基準の分類に変換され附属書VIの表3.1に表示されている。言い換えれば、CLP規則およびその1stATPの附属書VIの表3.1に記載されているGHS分類は、危険有害性データを基に国連GHSの基準で分類したものではなく、旧法下の分類をGHS基準で変換した「仮のGHS分類」のものである点留意が必要である。

ラベルは欧州専用ラベルを要求

前文(48)およびCLP規則第25条に、物質および混合物のラベル表示または包装上に、「無毒」、「無害」、「無公害」、「エコ」などの物質または混合物が有害でないことを示す表示、もしくは物質または混合物の分類と整合性の無いいかなる表示も記載してはならない。と規定している。

CLP対応ラベルの内容と日本や他の地域のラベルを併記した場合、「物質または混合物の分類と整合性の無いいかなる表示も記載してはならない」という要求を満足できないと考えられる。CLP規則ではCLP規則特有の表示要件もあるが、特にCLP規則附属書VI「調和された分類」のリストに掲載されている化学物質に関しては、その分類を使用することが強制されているため、他の国で推奨もしくは強制されている分類と異なる可能性が強く、「分類の矛盾」や「情報の矛盾」が生じ、第25条の要求を満足できない可能性が強い。

3.CLP規則に係わる最近の動きとCLP規則の義務対応スケジュール

(第1期~第3期の分類およびその考え方は筆者によるものである)
 前項にてCLP規則の基本的な考え方を理解していただいたように、CLP規則はGHSの分類・分類基準等を基礎にはしているが、欧州の従来法DSD/DPS指令を色濃く残している。特にCLP規則が発効した第1期で使用されている分類は、CLP規則で使用が義務化されている「調和された分類」は、CLP規則の附属書VIIを用いてDSD指令の附属書Iの分類を変換した「仮のGHS分類」である。この「仮のGHS分類」から危険有害性データをもとにGHS基準に照らして判定した分類の届出とその分類への切り替えが進行中である。
 また、第3期の全面施行にむけて、「表示と包装の手引」を発行しての正確なラベル作成の指導やC&Lインベントリーの公表により、より正確なGHS分類の適用を促進する等のさまざまな施策が打たれている段階と見える。

【第1期:旧法DSD/DPD併用でのCLP規則の物質への適用ステージ】

(この時期は義務化されている調和された分類は旧法のDSD分類を変換したものを使用)
(第1期、第2期は物質に対してもSDS(安全データシート)にDSD指令の分類を記載させ、旧法でも安全を確保している)

2008/12  CLP規則(EUROPA)公布
2010/12 物質の分類・ラベル表示義務化(CLP規則)
2010/12 物質の分類の届出義務化(CLP規則 混合物中の有害物質も)
2009/08  CLP規則1stATP(EUROPA)(規則(EC) No 790/2009)公布
2010/12 CLP規則1stATP適用義務化
(改訂された調和された分類の適用義務化)

【第2期:安全性等データに基づいたCLP分類に従ったラベル開始時期】

(旧法DSD/DPD併用でのCLP規則の物質への適用はこの期も継続している)

2011/03  CLP規則2ndATP(EUROPA)(規則(EU) No 286/2011)公布
2011/04  CLP規則対応 表示と包装の手引(ECHA) 発行 (和訳:情報機構(情報機構)JETOC(JETOC)
2011年中? C&Lインベントリー(ECHA)の公開
2012/12 CLP規則2ndATPの物質への適用義務化
(GHS改訂第3版に従って分類の一部が改訂されている。)
(絵表示のサイズの規定等も改訂されている)

【第3期:CLP規則の完全適用のステージ】

(旧法DSD/DPDは廃止)

2015/6 混合物も含め分類・ラベル表示義務化
(CLP規則:1stATP、2ndATPも含め)

次回は最新の2ndATPも含めたCLP規則概要を解説する。

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